toggle
2019-10-15

田中メカ先生×緑川ゆき先生スペシャル対談! 第3回

10月27日(日)の一日限定、マンガラボ!×LaLaがタッグを組んだ新コンテスト「ラララボ!1dayハイスピードマンガ賞」が開催されます。投稿してからデビュー決定まで、たったの1週間! 投稿作品すべてにLaLa編集部員がコメント! さらに田中メカ先生、草川為先生、藤原ヒロ先生、白泉社 菅原社長・鳥嶋会長からもコメントがもらえるかも?

コンテストの詳細はコチラ>>

このコンテストの開催を記念し、前回に引き続き田中メカ先生と緑川先生のSP対談を掲載。今回はお二人の変化や具体的な漫画づくりについて等語っていただきます!

第1回はコチラ>>
第2回はコチラ>>

◆お互いの変化

―― お互いの作品について、最初こうだったけど、今はこういうところが変わったとかはありますか。

田中メカ先生(以下、田中)  昔は尖ってたと思うんですよ。それはたぶん私もだし、ゆきちゃんもだと思うんですけど。どちらかというと、やっぱり若い頃って自分が描いたものを世に見せたいという欲のほうが全然上なので。「これが私だ」っていう、出したい欲みたいなもの・情熱があるので、そういう尖り方はお互いあったと思います。今は今で、ゆきちゃんのシャープさは変わらないんだけども、雰囲気は丸くなったかなと思います。シャープさというよりは、丸さが出てきた感じ。

緑川ゆき先生(以下、緑川)  うんうん。

田中 なんだろうなあ。年齢もあると思うんだけど、視点なのかな。あくまで主人公がいて、主人公の視点でという話であることには変わりはないんだけども、作品全体のキャラクターの見守り方というかが、すごく優しい。でも、『夏目』は元々そういうものではあるから、作品別になってくるとまた別なんですけど、でも優しくなったかなあって。

緑川 よくも悪くも安定はしてきたかな。作品やキャラクターに対しても、やっぱり昔は描いていて「うまくいかなかったら、このキャラクタークビだ!」という感じで、グワーッと描いてバーッと描き直していたんです。「刺しに行くぞ」っていう気持ちで描いていたんで、安定というのは。

田中 ねえ。いいんだか、悪いんだかね。

緑川 でも、メカちゃんは完璧に華やかになった。ものすごく!

田中 それはもう、たぶん時間の成せる技なのかもしれない。

緑川 私は描けば描くほど、選択肢が減っていくのね。前にやった、前に描いた、この構図やった。だから『夏目』の助かるところは、型を多少つくってもいいというか。流れを外してもいいときもあれば、外すと気持ちが悪いときもあるのを利用して描いている。けど、やっぱり選択肢が減っていくというのはあって。斑がでっかくなったときの構図とかすごく大変なんだけど、メカちゃんは描けば描くほど構図が増えていくというか。

田中 そう?

緑川 そう。例えばコレとか俯瞰がキマってる、すげえ、みたいな。

田中 あはははは(笑)。

田中メカ先生「背中のトゥインクル」の1シーン。(1/20発売HCS「ぼくと獲物の夏休み」に収録予定)

緑川 そういうの決まったらとてもいいシーンだけど、なかなか冒険じゃない。キメゴマでそういうのをやるのは大変だと思うけど、ばっちり華やかにできているからすごいなと思って!

田中 ありがとうございます(笑)。

緑川 メカちゃんは、いまも絵の練習とかってする?

田中 あ、でも、半年休んでた時、めちゃくちゃ落書きはしてた。

緑川 本当に、すごい!

田中 半年ひたすらキャラクターの研究をしていて。もちろん、内面がどうこうというイケメンが描けるのも大事なんですけど、今はぱっと見分かるイケメン描けないとなかなか見てもらえないのでは、と思ってて。
今できる練習はしていますけれど、キャリアが重なることで一番怖いのは古くなることなんですよ。自分の中で型が決まってしまうと、そこに安定して逃げてしまうというところがあるから。それが結局、分からないまま癖になってしまって、目が濁ってしまうというか。「これでいいや」「これが私だから」って完結しちゃうと、たぶんそこで進化が止まってしまうという恐ろしさがあるので、できれば常に進化していたいなと。

緑川 ああ、すごい。

田中 自分のできる範囲で新しいものを知っておきたいし、今どういうのが流行っているのかとか、いまの自分の限界ぎりぎりのセンサーで受け入れられるものは全部受け入れたいっていう、そういう気持ちではいるんですけど。

――なるほど。緑川先生はキャリアを重ねて、漫画に対するスタンス等に変化はありましたか。

緑川 やっぱり、漫画が描けるのは幸せなことなので……。そうですね、難しい(笑)。

緑川 昔は脳内に浮かぶシーンを描きたくて「これに近いものを描かなきゃ」って頑張ってたんですけど、最近のほうが、もっとちゃんとものを見描くようになったというか。デビューした頃は、分かってくれる人が分かればいいやって思っていたんですけど、やっぱり読んでもらった人に少しでも楽しんでもらえるほうがいいや、という感じになってきたかなと。

◆メディア化について

――田中先生の『お迎えです。』が2016年に実写ドラマ化、緑川先生の『夏目友人帳』が2008年にアニメ化されました。

緑川 メカちゃんがドラマ化した時、沢山お仕事していて。

田中 そうだね。さすがにあの時はあまり記憶ないかもしれない。

緑川 そうだよね、記憶なくなるよね。

田中 うん、あの仕事量、私どうやってやったんだろうって。あの時期、私、『キス早』『朝まで』『君コト』『お迎え』の4作品やってたんですよ。どう切り替えて描いていたんだろう。(笑)

緑川 しかも、読切形式じゃない?次回に投げるとかじゃなく、引きであって、投げじゃないじゃない。それでやるってすごいよ。やっぱり、結ぶっていうのは難しいよ。

田中 でも、私は一瞬だったけど、ドラマ化の恩恵を受けて。けど「ゆきちゃん、これ何回もやってんだよな」「何期やってるんだっけ、アニメ」みたいな。

――アニメは第一~六期、劇場版も作成されましたよね。

緑川 でも、アニメ化は本当にありがたいし、楽しかったから。たぶんアニメ化の話があったから頑張って続けられたっていうのはあるよ。

田中 そうだよね。すごく愛情を感じる作品に仕上がってるから。本当に素晴らしいよね。

緑川 アニメ関係で聞かれると毎回言ってしまうんですけど、漫画描いてる時って一人きりで。何日も深夜に一人で黙々と描いてたりすると、本当にすごくさみしくなって。「うーん、うーん」って思う時もあるんですけど、「アニメになる」というのがあると、これを読んで脚本に起こしてくれる人とか、このコマのこのキャラを描いてくれる人がいる。「私は一人じゃないぞ。仲間できたぞ」っていう気持ちで描けたから、それが本当に励みになった。

田中 そうだよね。

緑川 やっぱり、本当に読者さんがすごいありがたいので。すごく言い方が悪いけど、デビュー当時はマニアックだったので…。載せてもらっているけれど、なかなかヒットが打てないけど、応援してくれる人はいる。応援してくれる人を裏切りたくないというのが一番あって。だから、面白いものを描かなきゃって。読者さんを喜ばせたいのに「うーん、どんなのが喜んでもらえるんだろう」という恐怖がありました。だから、編集さんとほぼ二人でブルブルブルって一緒に考えながらやっていたのが、色々な人に手掛けてもらえるのは嬉しいなって。

田中 見てくれる人も増えたしね。前、私、電車に乗っていたらね、バリバリのギャルの子がストラップにエビフライのニャンコ先生を付けていて「ギャルなのにニャンコ先生好きなんだ」ってちょっと嬉しかったんだよね。(笑)視聴者層も増えるんだよなって思って。テレビの力って大きいよね。

緑川 ドラマの放送中はどうだった?

田中 「ありがたい」の一言しかないよね。

緑川 だよね、うんうんうん。

――メディア化の影響もあるのかもしれませんが、お二人とも読者層が幅広く、女性だけでなく男性読者も多い印象です。

田中 『夏目』は多いよね、きっと。

緑川 私の原作がというよりは、アニメで知ってくれている方がいるという感じじゃないかな。

田中 でも、あまり性別を選ばない絵柄だったり、作風だったりするじゃない。白泉漫画が好きな男性は一定数いらっしゃるから、そこの流れをくんでいるのかな、っていう。

◆具体的なマンガづくりについて

――少し話の流れが変わってしまいますが、お二人のマンガ力というか、演出力や構成力がいつも凄いなと思っていて。「勉強になる」と思いながら読んでいます。

田中 まあ、でも、20年描いてきて洗練されたなと思いますね。
40ページだったら、10、10、10、10って自分で描いて、しっかり起承転結でネームを描いてるので。「40Pの作品だったら20ページまでにこれを入れなきゃいけない」というのは自分の中で決めていて。20P以降にこのエピソードを使ってはいけませんというルールを。だから、20Pまで描いたら今度は「結」から描くんです。

緑川 へえ!

田中 ラストの一番大事な部分に、これだけページ数を使うから「転」の部分はこのページ数ね、という。そういう形で、わりとみっちりとつくるので。

――ものすごい秘訣を聞いてしまっている気が…!逆に、起承転結の「起」の部分も、ここまでに絶対この情報は入れるとか細かく決めてらっしゃるんでしょうか。

田中 そうですね。いかに起承転結の「起」を、短縮かつ簡潔に見せるかというのが一番時間かかるんです。そこさえなんとかなればみたいな。

田中 少し前の40ページの読切も、主人公の相手役の男の子が出るのが8ページ目だったから「遅い」って言って!6から出さないといけないと言って、2ページ縮める作業をしよう。という感じで細かい作業をしています。だから、制限されたもので自分のできることは何かというものを、切り捨てていく作業は得意なのかな。取捨選択というか。

――でも、必ずカタルシスが生まれるシーンを描く。

田中 そうですね。大事なところは取っておくみたいな。
いや、でも、どうなんだろうね。正直描き足りないところや男の子目線でもう1本描きたい、と思うものはあるんですけど。

――確かに、「男の子目線」や「続き」を読みたいという読切たくさんあります!

田中 本当にもったいないんですけど、どうしても少女漫画の読切って、【女の子と男の子が出会って、衝突して、思いが通じる】という流れで締まるんです。でも、今の子たちが好きなのってその先なんですよ。ラブラブしてるのを見たがるから、読切だとそこまでには至らないんだよなと思って。

――そうですよね。それだったら、最初から付き合ってる2人の話をやらないといけなくなっちゃいますものね。

田中 そう。でも、それだとやっぱり色々と足りない部分というか、説明の補足みたいなものがすごく難しかったり、インパクトのある馴れ初めみたいなものを強くつくらないと納得してもらえなかったりするので…。

――なるほど…。そんな細かなネーム作業を経て作画の作業に入っていかれるかと思うのですが、田中先生が「締切を破った事がない」というのをお聞きして驚きました!

田中 実際の作業でいうと、ギリギリなことはこの20年ほぼないです(笑)。締め切りを破ったっていう経験は、たぶん両手には満たないですね。

――大体「この辺」と言った時間から、まいて作業されると…。

田中 そうそう!だから信用してもらえないっていう。(笑) 「締切この辺じゃないかなと思うんですけど」って言われると、「じゃあそこより前ですかね」って。アシスタントさんの方が修羅場は知ってるので、私が「ヤバイヤバイヤバイ間に合わない間に合わない!」って言ってると、「雑誌的には」っていうカッコ付きで「大丈夫ですよ!」って言ってくれるんです(笑)。でも、「違うんだよー!」って!「私が」設定した締切に間に合わないって言ってるんだよ!っていうのを、毎回やってます(笑)

――すごい…!

田中 指定した日に上げなきゃダメでしょ!みたいな事を毎回言うんだけど、何故この業界はこんなに遅れて当たり前というものがまかり通っているのかと(笑)あ、いいのよ別に(笑)

緑川 あはは!

――緑川先生も最終的には締切に間に合わせてくださいますよね。

緑川 アシスタントさんが作業しながら、時々「ゆきさん今月何ページですか?」って。

田中 あはは!再確認を!(笑)

緑川 大丈夫大丈夫、って(笑)アシスタントさんが来てくれてるから大丈夫だよって(笑) そこからまたアシスタントさん達が頑張ってくださって。

田中 うんうん。そうだねぇ(笑)

緑川 でも、遅れてやばかったっていうのは『体温のかけら』を書かせて頂いた時に、すごくやばくて東京に呼んで下さったんですよ。田舎すぎて、しかも新人だったので周りにアシスタントさんがいなかったので。

田中 あー白泉社の会議室でやるやつだ!

緑川 そうそう

田中 噂に聞く…!カンヅメというやつ…!

緑川 畏れ多くもデビューされてる方々がお手伝いに来てくださって。当時の編集長も「キミはまだそういう段階ではない」と仰って、ご迷惑おかけしてしまった…!と。

田中 わー!怖いよ~!あの編集長がそんなこと言うんだ!

緑川 あと、『夏目』でたぶん人魚の話を描いた時に、いつもは『DX』掲載だったのが、久しぶりの本誌だったんですよ。当時の担当さん的にも、久しぶりに私が本誌に載る事になったんで二人ともウッカリしてて。カラーページの裏に宣伝が入るっていうのを忘れてしまっていたんです…!

――『LaLa』本誌はカラー扉の裏に広告が入りますが、『DX』はカラー扉の裏からマンガが始まりますから……。

緑川 ただでさえ締切を守れてないのに、ネームが「やっと終わったー!」ってペン入れを始めて8枚?6枚?くらいまで行った時に、「コレ左右逆です…」って言われて。

―――怖い…!

緑川 その時は泣きながら…!1/4柱とか見開きとかがおかしくなってしまって…。一生懸命詰め込んだんだけど「1ページ減らしてください」という形になって。お互い焦って…あの時は大変だなぁと思いました。

田中 やっぱりネームでいつも時間かかっちゃう感じ?

緑川 うん。

田中 でもそうだよね。ゆきちゃんの作品って、時間かかるよね。

緑川 でも、この頃はプロットもちゃんと立てずに、「出だしとこういう着地点を」というのを決めて書いてた頃だったから。本当に感覚で書いてた。伏線と思ってないものが伏線になっていた、って言うので描いていた頃だったので。

緑川 「夏目」の月刊誌でそれは博打すぎるから、今はちゃんと【ページ割】を作っています。さっきメカちゃんが言ってたみたいに、最初の10Pでここまで絶対入れて、最後の10Pで絶対これが必要だから、真ん中でなんとかやりくりしようっていう。どうしてもズレていっちゃって、やばくなってはいくんですけど。

緑川 自分の感覚を信じて書いてるとやばいって言うのがわかってきて。計画的にした方が気持ち的にも楽ですね。感覚的に描いたものの方が印象的なものはできるかもしれないけど、結局はパニクって描いたものなので…。おかしいというか、気持ちの悪い出来になってしまう事も多いって事もわかりました。
それに、ページ割をすれば「ページ割どおりに描けば終わる!」っていうね。(笑)ページ割をしていなかったら、終わるまで終われない。

緑川ゆき先生が「ページ割」について説明してくださった時のメモ。

 

 

田中 私も最初はページ割してなかったけど、いつしかやるようになった。

緑川 うんうん。恐怖心が薄らいだ。それで。このページ割通りやれば、最低は終わるっていう。

田中 そうそう。(笑)

―――お二人のマンガ力は、研究や経験を重ねて磨かれていったものなのですね。

次回は最終回!マンガ賞の審査員も務めてらっしゃるお二人に、投稿作についてや、20年間で一番うれしかった事についてなど語っていただきます!
10月18日(金)更新予定!!

 

■田中メカ
1998年『Light Right ラビット』にて第18回LMGフレッシュデビュー賞受賞。2016年に最初の連載作品『お迎えです。』がTVドラマ化。現在『花ゆめAi』にて『鉄壁ハニームーン』を連載中。主な代表作に『キスよりも早く』『朝まで待てません!』等。
■緑川ゆき
1998年『珈琲ひらり』にて第18回LMGフレッシュデビュー賞受賞。2008年に『夏目友人帳』がTVアニメ化。第六期まで放送され、2018年には劇場版も公開された。『LaLa』にて『夏目友人帳』大好評連載中。主な作品に『蛍火の杜へ』『あかく咲く声』等。
関連記事