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2020-05-20

「タブーはなし!少女漫画の秘めたる可能性を紐解きました!」前編 LaLa・鈴木編集長×集英社キャラクタービジネス室・浅田貴典氏×ニッポン放送・吉田尚記氏鼎談

マンガラボ!×LaLaがタッグを組んだ新コンテスト「ラララボ!1dayハイスピードマンガ賞」。第2回目の漫画賞が5月24日に開催決定! それに合わせて、幼い頃から少女漫画の大ファンだったという『ONE PIECE』連載初代担当であり、現在は集英社キャラクタービジネス室室長の浅田貴典さんと、少女漫画への愛なら誰にも負けない「LaLa」鈴木浩介編集長のスペシャル対談を実現! 司会を務めるのは、「日本一忙しいラジオアナウンサー」と呼ばれるアナウンサー吉田尚記さん! ”人”を描く「少女漫画」の魅力と可能性をトコトン語っていただきました!

『ONE PIECE』編集者の原点は少女漫画にあった!?

吉田:最初に、少女漫画との出会いについてお伺いできますか?

浅田:佐藤編集長との対談でも触れたみたいに(https://info.manga-lab.net/?p=1303)、僕は小さい頃から「オンドリャー」という熱血少年漫画に少し距離を感じていて、優しい男の子が主人公の漫画に惹かれていました。ちょうど中3になったとき、新御茶ノ水駅の近くにあった企業のメセナスペースで、豪華本漫画が一般に開放されていました。そこでたまたま出会ったのが「エイリアン通り 全 豪華愛蔵版」(成田美名子)なんですよ。それから高校3年まで、少女漫画にハマって死ぬほど読みましたね。

吉田:少女漫画のどういったところに惹かれたんですか?

浅田:うちは離婚家庭で、10歳の時に両親が別居してるんですね。しかも、一人っ子。学校では孤立気味。なので、自分と社会、家族がどうやって関係したらいいのかという部分に悩んでいて、それのひとつの解答が少女漫画だったんです。学校での自分のポジションや、理想の家族への憧れ、他人同士が良い距離感を保ちながらつながること。そういう描写は、わかつきめぐみ先生が本当にすごくて、どう少なく見積もっても僕は『So What?』を2000回くらい読み返してますね(笑)。あと成田美名子先生の、1970年代のアメリカングラフィティの要素にも強く惹かれてました。とにかくセンスが良くておしゃれだったんですよね。

少女漫画の魅力は”弱さ”にある!?

吉田:鈴木さんはどうでしょうか?

鈴木:僕が少女漫画を決定的に好きになったのは、予備校生のときです。まさに成田美名子先生の『CIPHER』と『ALEXANDRITE』をまとめて読んで、自分が悩んだり迷ったりしていることを肯定してもらえた気がしたんです。人の弱さを肯定することに力点が置かれた話がすごく刺さりました。それから予備校の寮に入って、少女漫画を友達と回し読みをしていたころによく読んでいたのが白泉社の少女漫画で、ここで働きたいと思って、入社にまで至りました。

吉田:『ALEXANDRITE』だと、ゲイの男性が出てくるじゃないですか。それで「ゲイって辛いの?」という質問に、「2回だけかな、自分で認めるときと親に言うとき」と答えますが、80年代の少年漫画には絶対に出てこない台詞ですよね。

鈴木:少年漫画はヒーローの疑似体験なんです。僕も『聖闘士星矢』(車田正美)や『北斗の拳』(武論尊/原哲夫)とか、人の強さやヒーロー像を描く作品に憧れを感じていました。でも、自分が強くあれないという現実が見えてきたときに、悩んで苦しんでいることにあなたらしさがあるんだよと少女漫画は教えてくれたように思います。

浅田:やっぱり今、辛い気持ちを抱いている人にフィクションは必要なんですよ。「あなたはひとりじゃない」というメッセージを伝えてくれる。

鈴木:自分の辛さをわかって言葉にしてくれている人がいるのは、当時の僕にとっては少女漫画のエポックな部分だったんですけど、弱さを肯定する少年漫画も増えていますよね。少年・少女漫画の境界がボーダレスになってきているのかなと感じています。

イケメンはお通しです!少女漫画にタブーなし!

吉田:ジャンルがボーダレスになるなかで、「少女漫画」の可能性はどういったところにあると思いますか?

鈴木:一時期、少女漫画原作の映画やドラマが増えたときに「壁ドン」という言葉が独り歩きしたじゃないですか。そうした流行が少女漫画の可能性を狭めてしまったなと思っていて。そもそもジャンルを制限する言葉じゃなかったはずなのに、少女漫画が自分たちで勝手に塀を作って「こうじゃなきゃいけない」と思い込んでしまっているというか。それで、「カッコいい男性と付き合いたい」みたいなわかりやすい欲望を反映した学園ラブコメばかりになって、誰もが共感しやすいところに行き過ぎているのかもしれません。

吉田:それは「イケメン問題」でもありますね。金持ちのイケメンに愛されたいとか、可愛い女の子に好かれたいとか、わかりやすい欲望に価値があると言われすぎている。だとすると、そうした価値観は脇に置いておいた方が漫画の可能性も広がるということになりますか?

鈴木:「イケメン」みたいな要素は、抑えておいて損はないものだと思うんです。ただ、全部が全部、イケメンとの恋愛をストーリーのメインラインに置く必要があるわけじゃなくて。たとえば『ガラスの仮面』(美内すずえ)は、マヤと「紫のバラの人」との恋愛、紅天女を目指す成長物語、どちらがメインであるかといえば、やっぱり後者だと思うんです。それを支える恋愛要素として「紫のバラの人」がいる。少女漫画は、そこのバリエーションがすごく多かったはずなんです。

浅田:少女漫画にはSFがめちゃくちゃ多かったですよね。『11人いる!』(萩尾望都)とか超好きです。もしかしたら、今は少女漫画の正しいイメージみたいなものに頼りすぎてしまって、それが逆に閉塞感を生んでしまうという悪循環があるかもしれませんね。

鈴木:それを打破したいというのが、「ラララボ!」という漫画賞の狙いです。白泉社の過去のヒット作、例えば『動物のお医者さん』(佐々木倫子)、『八雲立つ』(樹なつみ)、『CIPHER』(成田美名子)等を見ても、イケメンや読者にとって魅力的な男性キャラクターは登場しますが、テーマや設定、テイストはバラバラ。でも全部少女漫画なんです。

吉田:そう考えると、イケメンってお通しみたいですね。居酒屋にお通しは必ず出るけど、そのために行くわけじゃない(笑)。

鈴木:でも、お通しが美味しいと満足度が高い(笑)。

浅田:だから、イケメンは素材なんでしょう。鈴木さんが言うのは、イケメンという肉がそのまま出てきて、調理法が同じになっているんじゃないですか、ということで。

鈴木:浅田さんがこれまで読んできた少女漫画のリストを見ても、主人公には男も女もいるし、SF、歴史、ファンタジー、ほのぼの学園モノ、あらゆるジャンルが入っている、タブーがないんです。

浅田:1980年代の少女漫画は文化の最先端で、タブーとされていたことをバンバン破っていきましたから。それと、川原泉先生、桑田乃梨子先生とか、どんくさい男の善人が報われる話が僕は大好きでしたね。どんくさい男女が、じっくり問題を解決していって周りに認められていく姿がたまらないと感じていました(笑)。自分が、どんくさいですから!!

<浅田さんがハマった少女漫画作品はこちら!>

後編は5月22日(金)公開予定!

 

【お知らせ】
漫画創作講座「ジャンプの漫画学校」が創設!
今回の鼎談に登場してくださった集英社・浅田貴典氏も、

・第1回(8月8日)
「漫画のキャラクターについて」
・第4回(9月19日)
「連載の進め方〜人気急変回を例に〜」「連載に至る工程紹介と質疑応答」
・第8回(11月14日)
「スポーツ漫画について」

に登壇します。
詳細はこちらのサイトをチェック!
https://school.shonenjump.com/

※応募課題の締め切りは、2020年5月31日となります。ご注意ください。

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