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2020-03-29

「少年漫画編集と少女漫画編集」③ 花とゆめ・佐藤編集長×集英社キャラクタービジネス室・浅田貴典氏×ニッポン放送・吉田尚記氏対談

2019年より、少女漫画誌の編集部としては異例の「少年漫画部門」の募集を始めた「花とゆめ」編集部。今回は、そんな大冒険に打って出た花とゆめの佐藤一哉編集長と、『ONE PIECE』連載初代担当として、また数々の作品の立ち上げに携わったことで有名な少年漫画の名物編集者、集英社キャラクタービジネス室の浅田貴典さんがガチンコ対談。キケンな異種格闘技を制するのは、「日本一忙しいラジオアナウンサー」と呼ばれるアナウンサーの吉田尚記さん!ふたりの編集者が掲げる「少年漫画の編集論」とは?

編集者は「小さな歯車」でしかない!

吉田:編集者とはズバリどうあるべき存在だと思われますか?

浅田:「編集者かくあるべき」という必要はないんじゃないでしょうか。僕の場合はできるだけ作家さんの構想を助ける「良き壁当て役」にはなろうと思っています。もしくは小さな歯車。小さな歯車だけど、それが抜けるとちょっとガタガタしてしまう。けど、出来はともかく代わりはいる。

佐藤:すごくよくわかります。あくまでも作家さんが描きたいものが一番にあって、僕は小さな歯車でありたいと思う。サポートできる部分は、すごく少ないんです。

浅田:今まで僕が見てきた少年漫画編集者の立場から言うと、編集者は「プロデューサー」、「ディレクター」、「キャラクター」という3つのタイプに分かれると思っています。「プロデューサー」は、企画の手助けをしたり、プロモーションをしたり、総合的に作品の環境を整えるタイプ。「ディレクター」は作品の中身にかなり踏み込んで作家さんの構想を直接助けるタイプ。そして、「キャラクター」は、この人と馬が合うから作っていて気持ちいいと思わせるタイプ。でも、どれかひとつ100%の編集者はいなくて、ひとりの編集者のなかに、3つのタイプがすべて内包されていると思うんですよ。それで、作家さんとの組み合わせのなかで、合う合わないはある。出来る限り幸せな結果が出るように、編集部も組み合わせを采配しますが。

佐藤:少女漫画もまったく同じですね。編集のキャラにもよりますし、作家と編集の噛み合い方によって跳ねるかどうかは変わってくるのかなと思います。

浅田:たとえば『ボボボーボ・ボーボボ』(澤井啓夫)は、相田聡一(現『りぼん』編集長)という編集者が一読して「これハッキリ言って面白い」と編集部で激オシしてたわけです。大切なのは、どれだけ心の底からそのネームを見込めるか、という気がします。

吉田:作家本人がやりたい部分とは別のところが良かったりもしますか?

浅田:連載までいってる作家さんは自分の強みを知っているから、そういう修正をすることは少ないのではと思います。ただ、あえて言うなら、作家さんの描きたいものと、読者に受け入れられるものがズレている場合はあるかもしれません。カッコいい男キャラクターを描きたいと作家さんが思っていても、女性キャラの方が魅力的に描けたり、ギャグをやった方が読者に人気が出たり、そうしたことはあります。

吉田:似合う服と着たい服が違う、みたいな。

浅田:作家さんが自分の魅力に気づいていない時に、再発見の手助けをするのが、編集者の役目の一つなのかなと思います。

佐藤:ゼロから立ち上げてヒットに至ったと編集者が言える作品はまったくないんですよね。作家の才能のピントが合っているかどうか、その交通整理しか編集にはできません。道路を走っているとき、側道に入りそうになったら元の道に戻すのが編集のやれることで。

ヒットの秘訣は定石破りの「少年漫画

吉田:最後に、浅田さんがいま「少年漫画」にアプローチするとしたら、どんなことをされるか聞いてみたいです。

浅田:え・・・47歳のオッサンの意見いります?若いスタッフが心の底から作家に惚れ込んで作品発表するのが一番じゃないですか?あえて言うなら、現在メインストリームで成功している作品に対して「そーじゃないんだよな〜!」と反発して作ることですかね。たとえば、『ONE PIECE』は、当時の少年漫画の定石を全部外してるんです。尾田先生が狙っていたのは主人公のモノローグを絶対に入れない、とか少年だけでなく、大人をカッコよく描いてみせる、とか。

佐藤:「否定」がひとつのキーワードになっているんですね。

浅田:たぶん「憧れ」よりも「否定」の方が、作品の解像度がより上がると思うんですよね。「憧れ」は対象をそのまま受け入れてしまう分、解像度が下がってしまいます。他の例だと『BLEACH』のように、少女漫画の叙情的なセンス、ファッションセンスを持った少年漫画も当時はありませんでした。だから、いまの少年漫画に足りないことを少年漫画としてやるのが良いかもしれませんよ。ふんわりとしたパブリックイメージの少年漫画っぽいものをやるのは、一番ダメな気がします。もちろん今の少年が喜ぶのが大前提ですけど。

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