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2020-03-28

「少年漫画編集と少女漫画編集」② 花とゆめ・佐藤編集長×集英社キャラクタービジネス室・浅田貴典氏×ニッポン放送・吉田尚記氏対談

2019年より、少女漫画誌の編集部としては異例の「少年漫画部門」の募集を始めた「花とゆめ」編集部。今回は、そんな大冒険に打って出た花とゆめの佐藤一哉編集長と、『ONE PIECE』連載初代担当として、また数々の作品の立ち上げに携わったことで有名な少年漫画の名物編集者、集英社キャラクタービジネス室の浅田貴典さんがガチンコ対談。キケンな異種格闘技を制するのは、「日本一忙しいラジオアナウンサー」と呼ばれるアナウンサーの吉田尚記さん!ふたりの編集者が掲げる「少年漫画の編集論」とは?

作家の才能は〇〇で見抜く!

吉田:「少年漫画1DAY漫画賞」は、新しい少女漫画の「カッコいい」を探すために、あえて「少年漫画」の作品を募集するわけですが、新人さんの才能を見抜くポイントはどのあたりにあるんでしょうか?

佐藤:僕の場合は、構図の上手さを大切にしています。画面の演出が効いていて、オリジナリティのある絵が表現されていると「オッ!」と思いますね。それこそ、今まで担当してきた緑川先生や可歌まと先生は、構図の作り方が抜群に優れていました。あたまのなかのイメージが豊富で、自分の言葉を持っているんです。

吉田:構図のセンスは、新人作家でもわかりやすい?

佐藤:僕はそう思います。描いていれば基礎画力は向上していきますから、作家さんが「自分」を持ってそうだなと思えるかどうかが、大事かなと。

吉田:浅田さんはどうですか?

浅田:僕は「この人は将来伸びるかな」ということは最初考えないです。人はいつ伸びるのかわからないと思っていますから。実際そうでしたし。だから、どこか「光るところ」を感じたら継続的に付き合います。だけど、最初の打ち合わせで作家さんに好きな部分と課題を伝えたうえで、「この先何度か作品を見せてもらって実力が伸びないなとなったら、僕とのコンビや雑誌が合っていないかもしれないから、ほかのところの方が良いかもしれないと言いますよ」と伝えます。

吉田:年齢も関係ない?

浅田:年齢よりも描き始めてからの年数がポイントかなと思います。たとえば19歳からの4年間でも、29歳からの4年間でも、成長曲線は変わらないような。

吉田:「光るところ」とは具体的にどういう感じなんでしょうか?

浅田:僕個人の判断基準は、「1コマでも本心から、心を動かされた部分があるか」ですね。表情、言葉、カット割り、そのどれかひとつでも面白そうだ!とか、この人しか描けないな!!とか、笑っちゃった!!!とか、思う人がいたら「次も来てほしい」と伝えます。

吉田:キャラクターで判断することもありますか?

浅田:ひとつでも光っている表情があるかどうかを見ます。これは、僕の編集者の出発点として担当させていただいた浅美裕子先生(『WILD HALF』)の影響が大きいと思います。浅美先生は第一稿のネームの段階で、必ずどこかに光っているシーンや言葉があるんですよ。でも週1でネームを上げているわけで、煮詰まっていないところが出てくる。それを整理して「光る一点を最大限に活かすようなネームの再構成を目指す」打合をしていました。その後の修正ネームは、必ず素晴らしい出来になっていたんです。それ以来、他の作家さんと打合でも「このネームのなかで一番光っている表情や言葉はなんだろう」と思いながら、常に読むようになりましたね。

ONE PIECEのネームが通らない!?

佐藤:たとえば『ONE PIECE』の連載を立ち上げる時は、尾田先生のどんなところに注目されたんですか?

浅田:尾田先生の場合は、明確に才能があったので。誤解のないように言うと、僕は2代目の編集なんです。初代担当の時に『ONE PIECE』の原型になった読切作品『ROMANCE DAWN』が増刊号に掲載されたんです。その後、週刊少年ジャンプ掲載の読切作品『ROMANCE DAWN』と連載ネーム立ち上げからは僕なんですけど。

佐藤:『ROMANCE DAWN』のような海賊モノをやりたいというのは尾田先生から?

浅田:そうです。ただ連載ネームがなかなか通らなくて、4回目でやっと通ってるんですよ。当初はルフィの「股旅モノ」で、ルフィが宿場町にやってきて、困った人を助けて、次の街に行く形式でした。だけど、ルフィが何を考えているかわからないと言われて落ち続けたから、尾田先生が「じゃあ、わかるようにしよう」と、取っておきのルフィが旅立つ理由となるシャンクスとの出会いを描いたんですね。僕は、そうした尾田先生の七転八倒に並走していただけだと思います。

吉田:浅田さんが作品の中身に関わることはなかったんですか?

浅田:最初の読者としてのセンサー役、後は要素の交通整理の助言だったと記憶してます。尾田先生の場合描きたいことがたくさんありすぎて、逆に1話の中で1番印象に残るべき要素がボヤけてしまう時がありました。ここが一番見たい、というお願いですね。そのくらいです。もちろんキャラクターの話はたくさんしましたが、編集者が作品に関わると言っても、尾田先生の仕事としか言いようがないですよね。

吉田:『BLEACH』の久保先生を担当していた時はどうでした?

浅田:久保先生の場合、作品というより、作家として成長していくプロセスが特に印象に残っています。久保先生は、読切が何本かあって連載企画があって、各フェーズの課題を恐ろしい勘の良さでクリアしていった。1ページ見るだけで明らかにキャラもあるし、言葉もあるので、相手に伝えるための漫画の技術の基本を言い続けただけだと思います。

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