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2019-10-23

「LaLa」鈴木浩介編集長×「マンガラボ!」井手優美編集長クロストーク 「今ならまだ間に合う! みなさんの“自己紹介”をお待ちしております」

ついに今週末!10月27日(日)の一日限定で、マンガラボ!×LaLaがタッグを組んだ新コンテスト「ラララボ!1dayハイスピードマンガ賞」が開催されます。投稿してからデビュー決定まで、たったの1週間! 投稿作品すべてに編集部員がコメント! さらに田中メカ先生、草川為先生、藤原ヒロ先生、白泉社 菅原社長・鳥嶋会長からもコメントがもらえるかも? コンテストの詳細はコチラ>>

本コンテストの開催を記念し、今回タッグを組んだLaLaの鈴木編集長と、マンガラボ!井手編集長より、投稿を考えているみなさんへ向けた熱いメッセージが届きました。

鈴木浩介
2000年入社。「花とゆめ」編集部に配属。2016年より「花とゆめ」編集長。2018年より「LaLa」編集長。主な担当作品は、「スキップ・ビート!」(仲村佳樹)/「ヴィーナス綺想曲」 (西形まい)/「天使1/2方程式」(日高万里)/「それでも世界は美しい」(椎名橙)「高嶺と花」(師走ゆき)/「贄姫と獣の王」(友藤結)など。趣味は映画観賞・渓流釣り。
井手優美
2000年入社。「LaLa」編集部に配属。2016年より「LaLa」編集長。2018年より「マンガPark」編集長。2019年「マンガラボ!」オープン。主な担当作品は、「ヴァンパイア騎士」(樋野まつり)、「会長はメイド様!」(藤原ヒロ)、「青春攻略本」(あきづき空太)、「うそカノ」(林みかせ)、「不祥事アイドル」(慎本真)他。最近の趣味は昔の少女小説を探して読むこと。

「1dayハイスピードマンガ賞」開催の経緯は…?

井手:「マンガラボ!」が始まるまでは、私が「LaLa」にいて、鈴木編集長が「花とゆめ」にいたんですよね。

鈴木:そうなんです。まったくの同期で、ずっと隣の編集部だった井手編集長がキャラクタープロデュース部に異動するのと同時に、僕が「LaLa」に異動しました。ふたりでこうして一緒に写真を撮るのは、新入社員の時に撮ったプリクラ以来じゃないかな(笑)。同期の編集者として、ずっと存在は意識していたんですどね。そして今年のお正月に井手編集長が「マンガラボ!」をスタートさせる訳ですが…ふたを開けてみたらとても多くの投稿者さんが集まってくれているじゃないですか! 漫画を描きたい人が、自分の描きたい形で、描きたい情熱をぶつけた作品に対して編集者がアプローチするって、とてもイイな!と思いました。そして、ここに集まってくれた方々に「LaLa」にも目を向けてもらいたい。もっと言えば、僕たち「LaLa」の編集者が、これまで「マンガラボ!」にも「LaLa」にも直接投稿する機会がなかったけれど、「漫画を描きたいと情熱を持っている人たち出会う場」を作りたいなと思ったんです。そこで、ウェブならではの特徴を活かして、スピーディに審査して、スピーディに結果を出す、「1dayマンガ賞」の企画を進めました。

井手:「マンガラボ!」は、キャラ表だけで投稿できる賞や、すでに声優さんが決まっている賞など、コンセプトを明確にして気楽に投稿できるようにしたことが効果的だったのかも知れませんが…我々スタッフの想定を超えて面白い作品がザクザク登場し、デビューも次々決まっています。でも一方で、「ラボ!」に投稿してくださった方や、専門学校の方と直接お話してみると、「LaLa」は10代じゃないと投稿してもダメとか、一回他誌でデビューしちゃうと「LaLa」や「花ゆめ」にはもう投稿できないといった「よくわからない都市伝説」が聞こえてきて…。「あぁ! なんということだ!!!」と…。

鈴木:実際そんなことはまったく無いんですよ? でも、紙媒体の漫画賞、特に「LaLa」の場合は、月例のLMS(ララ漫画スクール)で鍛錬を重ね、年に3回開催するLMG(ララ漫画グランプリ)という大きな賞を受賞してデビューする、という道筋を創刊から40年以上ずっと続けてきたんです。漫画を1本描きあげるのに1カ月掛かったとして、それを月例賞に投稿するとしめきりから早くて賞の発表まで1カ月掛かります。さらにその結果を見て次を…となると、せっかく描きたいと思ってくれている人の「描けるチャンス」自体を減らしてしまっているんじゃないか。それなら、早く結果をお伝えできる方法があればいいんじゃないかと思ったんです。

井手:私も「LaLa」にいた頃から、そういう方法があると良いなぁと思って「ラボ!」を立ちあげたんですけど…「ラボ!」に来てみたら来てみたで、本当は「LaLa」のような老舗に挑戦してみたいのに、諦めてしまう人がいらっしゃると分かった。これは由々しき事態だと思っていたところでちょうど「LaLa」編集部から「一緒に何か出来ないか?」という話を頂いたので、老舗の和菓子屋がデパートに期間限定ショップを出すような、「Win-Win」な感じで新しいことをしたい。最近「ラボ!」でやっているコンテストとは少し毛色を変え、投稿の幅を拡げたい!と思ったんです。

鈴木:「ラボ!」内で雑誌名を冠に掲げた賞は、これが初めてだよね?

井手:初めて。

鈴木:今までは「ラボ!」をそれぞれの雑誌が活用していましたが、今回は「ラボ!」と「LaLa」がコラボするとハッキリ銘打って挑戦する、新しい試み…「初めての共同作業」です(笑)

───「ラボ!」は投稿してコメントがつくまでのワクワク感すら楽しめるような感覚がありますね。リロードすると「あ! コメントついてる! イイねついてる!」なんてことも…。

鈴木:そうですね。これまでオンタイムで編集の反応を得ようと思うと、持ち込みに来るしか無かったんですが、「ラボ!」を使うと地方在住の方や、時間的に厳しい人でもコメントがすぐ見られたり、ある程度やり取り出来るのが面白いところですよね。普段からSNSなどのやり取りに慣れている人にとっては、紙の賞とは違う感覚で楽しんで投稿してもらえると思います。

「LaLa」は、読者さんの愛情が深い雑誌です!

───今回は投稿者の中から1週間で「LaLa」デビューが決まる訳ですが、「LaLa」は一体どんな雑誌なのでしょうか?

鈴木:「ラボ!」スタート時のインタビューでもお話したかもしれませんが、僕は、「少女漫画誌でありながら、少女漫画なだけじゃない雑誌」を作りたいんです。「LaLa」は創刊43年を迎える老舗月刊少女漫画誌ですけども、少女が喜ぶなら、いわゆる少女漫画から少しはみ出してもいい。むしろはみ出した方がいい雑誌だと思っています。創刊当初から幅広いジャンルの作品が掲載され、またそれをを楽しんでくださる読者がいらっしゃった結果、「ちょっと変わったものを描きたい」という作家さんが脈々と「LaLa」に投稿してくださったんですね。多分「他の少女誌には持ち込みにくいな~、出せないな~」っていう作品でも「LaLa」だったら受け入れてもらえるんじゃない?っていう描き手さんの気持ちと、それを実際に受け入れ、むしろ作家さんのはみ出た部分を大事にしながら誌面作りをしてきた歴史が「LaLa」らしさだと思っていて…。僕自身も、学生時代から少年誌・少女誌気にせず漫画を読んでいたんですが、気づいたら好きな作品に「LaLa」の漫画が多かったんですよね。それで白泉社を志望したっていう…。

井手:私にとって実はそれが「花とゆめ」の漫画だったんです(笑)。それで白泉社を志望しました。白泉社は「白泉社の漫画が好き!」で入社する人がほとんどなんです。あとこれは「LaLa」だけでなく「花とゆめ」もそうですけどこのご時世に、かなりたくさんの「ファンレター」が届きます作家さんにとっても、私たち編集者にとっても、ファンレターや読者さんの感想は何物にも代えがたいものなので、本当にうれしいです! 雑誌に対しても、作家さんに対しても「熱い読者」さんに支えられている実感があります。「ラボ!」の作品にも、「♡ハート」をつけてくれる方たくさんいらっしゃいます。熱く懐の広いファンに支えてもらえるのは、投稿者さんにとっても、絶対良いことだと思います。

 歴代大ヒット作家も、編集者と一緒に「強み」に気づいていた!

───自由な気風と、すばらしい読み手さんに支えられている「LaLa」ですが、デビューが決まった後、たくさんの人に愛されるヒット作を生み出すまでは、大変な道のりだと思います。編集者としてそんな「ヒット作」が生まれる瞬間に立ち会った、印象的なエピソードはありますか?

鈴木:今年ドラマ化もされた、師走ゆき先生の『高嶺と花』は、第1話のネームを読んだ時、ふるえが来るほど興奮しました!

実は師走先生が月例賞で1位を獲ってから一時期、仮担当をしていたんですが、その当時からキャラクターのちょっとした心の動きを表情の変化で表現するのがものすごく上手くて「生き生きしたキャラクターを描かれるな!」「キャラがとにかく可愛いな!」と思っていたんです。僕が改めて担当を引き継いだ時は、ちょっと凝った設定の作品の連載が終わったところだったので、「次回作は、設定はできるだけシンプルにして、キャラクターの面白い組み合わせを作りましょう!」「キャラとキャラがあるシチュエーションに入り込んだら、それだけで勝手に動き出して、お話が1話できてしまうようなキャラを作りましょう!」というお話をしながら、いくつかのパターンを増刊で試していたんです。それである打ち合わせの最中に「キャラ同士の掛け合いの面白さとか、キャラの良さが際立つのって、ある程度キャラ同士が一対一で向き合わざるを得ないシチュエーションになった時……例えば、今の時代にはほとんどなくなったけど、<お見合い>ってそういうシチュエーションなんじゃない?」という話題になって。じゃあ、「替え玉のお見合いモノやってみましょう!」と。「男性はハイスペック。少女漫画の男性なので、ものすごくイケメンでかっこいいんだけど、あまり女性慣れしていない。対するヒロインは、むしろそういうウブなところがカワイイ!と思うようなタイプにしたらどうだろう」と。…そんな話をして、ネームを進めてもらうことにしました。それからしばらくして、第1稿が師走先生から上がってきたんですが、本当に驚いちゃって。読んで間髪入れずに電話して「めちゃくちゃ面白かったです! 是非これ描きましょう!」ってお伝えしたんです。どうも、…僕が読んだ直後にものすごい勢いで褒めることはあまり無かったらしく、師走先生が後に「あの時はビックリした」って仰ってました(笑)。確かに打ち合わせで「女性慣れしてないイケメン」の話はしましたけど、ネームを観たら、ものすごーくひねくれてエッジの立った「高嶺」がいて。ヒロインの「花」も、高嶺のいじり方がすごく面白くて、人間性がにじみ出ていて、2人の組み合わせが、バッチリハマっている。この2人だったら…例えばあるイベントに高嶺と花が入りこんだら、高嶺がこう動いて、次に花がこう動くって瞬間的に見えたんです。高嶺と花が生まれた瞬間に立ち会えたのが、本当に嬉しかったですね。それまで「師走先生のいいところはここ」と僕が思っていたことが、形になった瞬間だったので。『高嶺と花』コミックス1巻のここに書いてある「そのキャラがただそこにいるだけで話が1本出来るような漫画を!と、担当さんが前から言っていた」って、僕のことだと思うんです! 僕の思い込みじゃないはず…(笑)。そういう意味で、井手編集長が担当していた『会長はメイド様!』や『うそカノ』も、メイン2人の関係性の面白さが詰まった作品ですよね。

井手:なるほど聞き入っちゃった(笑)。そうですね…私がいた当時の「LaLa」は「デラックス」以外に季節ごとに「色LaLa」と呼ばれる増刊を出していた時期があったんですね。「赤LaLa」はホラー、「青LaLa」は青春、「白LaLa」はピュアファンタジーみたいな…。年に5冊くらい出してたんですけど、『うそカノ』の林みかせ先生は、そのほとんどに描いてくださっていたんですよ。

鈴木:それだけハイペースで、増刊で読みきり描くって、大変だったんじゃない?

井手:毎回ジャンルが異なるものを求めるんで、すごく大変だったと思う! 今にしてみると、「林先生がホラー?」と思うかも知れないけど、林先生のホラー、本当に怖かったの! ピュアな女の子が闇落ちして襲いかかってくるお話で、校了時に編集部がザワついたぐらい(笑)。「林先生に、何を描かせてるんだ!!」とも言われましたけど、林先生と私はそれがすごく気に入っていたんですね(笑)。その頃すでに林先生は連載経験もあってキャリアを積んでらしたけれど、モチベーションが常に高くて。「いい作品を作るためなら、何でもがんばります!どんな作品でも挑戦します」っていう感じでとにかく自分にあってるものを探し続けていらっしゃったんだと思います。そんながんばりを実際見てしまうと、担当としては「お気持ちにお応えせねばならん!」と思いますよね…。そして、増刊をご一緒する中で、林先生の作品は、感情がぶわぁーっ!っとわき起こった瞬間の女の子のすごーく切ない1コマが、ものすごく人目を引くというか…とにかくそのシーンだけで読み手の感情を揺さぶれる力があると感じたので、だったら有無を言わせない位すごくせつないシチュエーションに、林先生らしい一生懸命な女の子をぽいっと放り込んでみよう! それで本誌の3回連載に挑戦しようという相談をしたんです。それで生まれてきたのが『うそカノ』で…。おそらく「色LaLa」シリーズでいろいろ挑戦する過程で「見えてきた」んですよ。2人で向かって行ける方向が。

鈴木:そういうことってあるよね! 作家さんが普通にしていたら「まず描かない」ようなもの…それこそホラー描いてみない?っていう提案で描いてもらったら、ズバッとハマるケース!

井手:そうなんです。テーマ制の増刊は、読者さんも普段と違う味を楽しめるし、作家さんにとっても「意外な自分」に出会えるチャンスだったりしますね。

鈴木:あと、作家さんご自身が、自分に合っているものが何か分かってないこともよくある気がします。師走ゆき先生も、自分が「THE ラブコメ」を描くとは思っていなかったそうなんです。自分が普通のラブコメディを描いても埋もれちゃうと思っていたらしくて…。「実際にラブコメを描いたら、すごくキャラが動かしやすかった」と仰っていました。でも実際「ここが自分の特徴」「ここが長所」みたいなことって、自分自身だと見つけにくいのかも知れないです。

───「LaLa」だからファンタジーじゃなきゃいけない!ということではない、と。

井手:実際、学園モノが多かった時期もありますからね。作家さんの持ち味次第です。

鈴木:そうそう。逆に樋野まつり先生は、コメディタッチから骨太ファンタジーの『ヴァンパイア騎士』で大成功されたパターンですよね。

井手:コメディを描いているころから、樋野先生は吸血鬼を扱った小説や映画がとても大好きで、本当に詳しかったんですよ。古典から児童文学まで。『ヴァンパイア騎士』の前に描いていた『めるぷり』の打ち合わせの時にもよく「吸血鬼のこういう映画を観た」とか「吸血鬼が、命を懸ける重いけど儚い愛に、魂が震える」というような話をずーっとされていました。当時の私は「なるほどー」って言ってただけなんですけど(笑)。でも『めるぷり』の連載が終わって、次の新作を立ち上げる必要がある。すでに人気があったので準備期間は4カ月しかないし、「LaLaDX」に別の読みきり40ページ描かなきゃいけない。みたいな状態になったんです。今、新連載を立ち上げるなら、樋野先生が一番好きなものにしたらよいんじゃない?と思って、「吸血鬼ものどうですか?」ってご提案したところ「好きすぎて、むしろハードルが高い」って仰られて(笑)。最初に私がイメージしていたのは、「ライトなラブコメ的吸血鬼」だったんですよ。でも樋野先生はずっと吸血鬼を研究していたからこそ説得力のある吸血鬼を描けるわけだし、大好きだと仰っていた「命を懸ける重く儚い世界観」も、樋野先生の画力なら、きっと描けるはず。だったらもう、腹をくくって、シリアスで深いところまで行くしかないんじゃないか!と、2人で寝食を共にして打ち合わせながら話し合って。実際の本連載でも序盤はちょっとテンション高めだったりするんですが、重厚な世界をつくるために、第1話のネームを何回も何回も描き直してもらいました。もう、何がなんだかわかんなくなる位描き直してから当時の編集長にネームを見せたら、別室に呼び出されたんですよ。ものすごいドキドキしていたら、一言「面白い」って。言われた瞬間、私の方が椅子から転げ落ちるくらいにホッとした記憶があります。

鈴木:俺、第1話の見開きで零が銃を構えるシーン見たときに「これ、絶対売れる!」って思いました。「かっけぇぇー!!!」て。樋野先生の美麗で妖艶な絵で、ヴァンパイアだって!!!!って。そんなに昔からヴァンパイアがお好きだったならなぜそこまでお描きにならなかったんだろう? って思うぐらいハマってますよね…。

───読者としては、それまでにいろいろな経験を積んで円熟された時期の『ヴァンパイア騎士』に出会えてうれしいです。

井手:そうですね、新人作家さんの3回連載だと絶対に描けないテーマですね。

鈴木:確かに3回にまとめるのは……厳しいね!!!

絶対に味方をするし、そばにいて支えたいと思っている!

───最近は編集者なしで、フリーに漫画を描かれる方も増えていらっしゃいますが、お2人が編集者として大事にされていることはありますか?

井手:ホント偶然なんですけど、昨日Twitterを見てたら、私が今担当している作家さんが「昔はパッションで漫画を描いていて、その後勉強して描いて、今はまたパッションで描けるけど、あの勉強してた時期に学んだことが今すごく役立ってると信じてる」みたいなことをツイートしてて、「良いこというなぁ!!!!!」って思ったんです。漫画家が作品をうみだす時って、ものすごいパッションを…それこそ血を吐くようなパッションをぶつけて描いてらっしゃる訳です。長く作家さんを見続けてきた中で思うのは、「それでもパッションが切れることがある」ということ。作家さんがパッションで描いている時に編集も同じ熱量で応えるのは当たり前なんですが、作家さんが「…勉強しなきゃ!」って思ってらっしゃる時こそパッションで支えてあげたいし、作家さんがパッションを爆発させている時には勉強しておける存在であらねば!と改めて思ったんですよね。よく編集者がいると「資料や取材の手配をするから便利ですよ」っていう…目に見える便利さが強調されると思いますが、実際漫画を描く作業で一番しんどいのは、情熱を保ち続けることだと思うんですね。漫画ほど1人の作家さんが長い間定期的に製作し続けなければならないコンテンツってないと思うんで。制作中ずーっとパッションを保ち続ける作家さんを、パッションで支える…少なくとも「支えたいと思っている」のが担当編集ということだけは、お約束できるかなと。

鈴木:……ね。こんなの自分で言うなって話ですけど、絶対に味方をしてくれる人間が傍にいるのって、心強いと思うんです。少なくともそばにいて支えたいと僕らは思っているし、あと、情熱だけではどうにもならない「時間」も捻出できるのが、編集と一緒に漫画を作る良さかなとも思います。井手編集長の仰っていた勉強…つまりトライ&エラーをする時間を僕たちは用意できます。

───時間を作れる??

鈴木:多くの人に楽しんでもらえる「作品」を作るためには、作家さん自身の強みに作品が合致することに加えて、「こうするとより読者に伝わる」「こういう作品がいま求められている」というニーズをある程度くみ取る必要がありますよね。作家さんが1人で100通り試すには1カ月1本だとしても100カ月掛かっちゃうわけですけど、編集者は複数の作家さんを担当している分、トライした回数が多いんです。さらに歴史のある雑誌や出版社にはそれまでのトライ&エラーや成功体験がデータベースのように蓄えられている。もちろん、僕たちも過去の経験則がすべてではないことに充分気を付けていますが、作家さんも僕たちを利用してもらった方が単純にショートカットしやすくなるんじゃないかと思いますそれこそひとりで壁打ちしていると、全体的に散らして描くのは難しいように、傍で客観的に見ている人間の方が、「今回の作品のここはよかったから次にも使おう」とお伝えしやすいと思います。ファンレターやアンケートの結果も目を通していますから、読者の代表としての意見を、パッションを乗せて、自分の意見も加えてお伝えするようにしているんですよ。

井手:編集にも、本能派と理論派がいるんです。若い編集者は本当に読者と同じような感覚ですから、作家と編集が「キャー!!! 好き好き!!!」って盛りあがった結果、ものすごく読者に刺さるキャラクターが生まれてくることも多いんですけれど、キャリアを積むにつれ今度は積みあげた経験で作家さんを支えるようになっていきます。

鈴木:でも井手編集長は本能派というか…読者の好きと感覚がかなりリンクしていると思う(笑)。

井手:そ、そうだね…そうかも知れないね(笑)。

───全力でパッションをあげつつ、お役に立つためにちょっとだけ厳しいことを言うこともあるということですか?

鈴木:そうですね。例えば友達に作品を見せたら褒められるだけのことも多いと思うんです。「面白かったよ」って。もちろん良い部分を評価するのは大切ですけど、褒めるだけなのは作家さんの未来にとっては「無責任」になりかねません。編集者は褒めるときには褒めるし、作家さんからすると苦いことをいうこともある。それは、「目的地点」が少し未来にあるからなんですね。作家さんがより良い場所にたどり着けるように、よりよい作品を生み出せるようにお話するのは、担当編集者だけなのかなと思います。

井手:私も作家さんに説明する時によく「船に乗る」って言うんです。「作品の船」に乗ってるのは基本的には作家さんだけなんですけど、そこに編集者もよっこらせと乗せていただいた上でお話をしているんで、船が沈んだら私も困るんです。私はこの船に一緒に乗っている。岸辺の安全なところからなんだかんだ言ってる人だとか、隣のでかい船からなんか言ってくる人がいるかも知れないけど…同じ船に乗っている私を信じてもらえるよう、努力します。それこそ、ヒットしてメディア化すると、ありがたいことに小さな船にものすごい人があふれかえることもあるんです。でも、そのお祭りが終わって、また船に乗っているのが二人きりになっても、寂しいというより「やりきった、まだ頑張れる」と思ってもらえるように、私も精一杯頑張りたいですね。一番近くで、褒める時は褒めるし、道が間違ってると思ったら「違うのではないか?」とお伝えしつつ、私も必ず最後まで乗ってますから!とお伝えしているんですよ。

───生み出すのは先生で、立ち会ってらっしゃるのが編集者なんですかね。

井手:作家さんにとっては、キャラクターは本当に子どもたちだと思います。だけど、「私だって叔母くらいの立ち位置ではある! こんなに傍にいる叔母なんだから、意見を言わせてくれ!」って感じでワーワー言ったりしますね(笑)。

まだ「投稿するか」迷っているアナタへ…

───この記事が掲載されてから、実際の投稿日までは数日猶予があります。そこで「どうしようかな…」とまだ迷っている方に何か伝えたいことはありますか?

鈴木:この作品を出して良いんだろうか、受け入れてもらえるだろうかって悩んだりすると思うんですけど…編集者は作品そのものだけではなく、その作家さんとの将来を見ながら、どういうふうに一緒に作品を作っていくか? そういう「未来図」を見ながら作品を拝見しています。特に今回「1dayマンガ賞」は、もしかすると初めて「LaLa」を意識したっていう方もいらっしゃるかも知れない。でも、逆に言えば、そういった方の中から今までの「LaLa」に無いものとと出会えらたらうれしいなって思っているんです。冒頭でお話したように、「LaLa」をはじめとした白泉社の少女漫画の良さは、「はみ出してる部分を活かして、そこを面白くつくりあげる」ところだと思うので。「自分はこんな作家です」とか、「こういうものを面白いと思ってます」とか、「こういうはみ出し方をしてます」っていう、自己紹介をするくらいのつもりで投稿していただけたらよいと思うんです。みなさんの自己紹介をお受けして、この作家さんと、今後どういうふうに漫画の世界を歩んでいこうか?っていう未来を僕たちも考えさせていただいて、「コメント」という形で、今度は僕ら編集者の自己紹介を必ずお返しするので。その結果、お互いに「この人となら…」って思えたらなら、ぜひ一緒に漫画を作りたいなと思っています。

井手:入社からずっと「LaLa」に17年いて、今年から「マンガラボ!」を立ち上げたんですが……歴史が磨いた「LaLa」の良いシステムと、「LaLa」という世界観に対して、「マンガラボ!」の即時性…今の漫画界らしい良いシステムとが、今回鈴木編集長の決断で初めて交わって、いいバランスが取れていると思うんです。なので、「どっちに挑戦しよう」と迷っている人も「どちらにも挑戦したい」という人も、今回の漫画賞に投稿して損はないんじゃないかと思っています。特に今回の賞は、1週間で結果が出ますから! 悩むぐらいだったらお試し投稿してもいいかな? 結果を心配して長く座して待つ必要もないので。ぜひ投稿をお待ちしております。

───ありがとうございました。

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