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2020-03-27

「少年漫画編集と少女漫画編集」① 花とゆめ・佐藤編集長×集英社キャラクタービジネス室・浅田貴典氏×ニッポン放送・吉田尚記氏対談

2019年より、少女漫画誌の編集部としては異例の「少年漫画部門」の募集を始めた「花とゆめ」編集部。今回は、そんな大冒険に打って出た花とゆめの佐藤一哉編集長と、『ONE PIECE』連載初代担当として、また数々の作品の立ち上げに携わったことで有名な少年漫画の名物編集者、集英社キャラクタービジネス室の浅田貴典さんがガチンコ対談。キケンな異種格闘技を制するのは、「日本一忙しいラジオアナウンサー」と呼ばれるアナウンサーの吉田尚記さん!ふたりの編集者が掲げる「少年漫画の編集論」とは?

「少女漫画誌」が始める「少年漫画

吉田:最初に、これまでやってきた編集の仕事について簡単に教えていただけますか?

浅田:1995年に「週刊少年ジャンプ」に配属され、そのまま10年ほど働きました。2007年には「ジャンプSQ」の創刊スタッフとして3年くらい現場にいて、2010年から「週刊少年ジャンプ」の副編集長を4年間担当したのち、「JUMP j BOOKS」という小説レーベルの編集長を3年間経験しました。今は、2017年に立ち上げた「キャラクタービジネス室」の室長をしています。漫画本の出版だけにとどまらず、ゲームやアニメなどの仕事を直接行い、漫画家さんの才能を活かす仕事を作ろうとしている部署です。詳しくはHPを見ていただけると嬉しいです。

佐藤:僕は入社してから15年間は「LaLa」に所属していました。『夏目友人帳』(緑川ゆき)や『狼陛下の花嫁』(可歌まと)といったタイトルを担当して、3年前に「花とゆめ」編集部に来ました。それから副編集長を1年間、編集長を2年弱やらせてもらっています。

吉田:「花ゆめ」は数々の名作を生み出してきた少女漫画誌の老舗です。今回、どうして「少年漫画」を作ろうと思われたんですか?

佐藤:すごくシンプルに言って、「花ゆめ」で制作する作品の幅を広げてみたいと思ったからです。80年代に思春期を迎えた世代は、男の子からも「かっこいい」と言われる「少女漫画」の文化に触れてきた方が多かったと思います。でも、今はそうした漫画を「花ゆめ」から発信できていないところがあります。もしかしたら「少女漫画」というカテゴリーが自由な創造の幅を狭めてしまっているのかもしれない……そんな想いがあって、あえて「少年漫画」の冠をつけた賞を設立することに決めました。

吉田:「少年漫画」と銘打つことで、「少女漫画」の新しい流通チャンネルを作ろうと。

佐藤:そもそも「花とゆめ」や「LaLa」は、他誌に比べても縛りがゆるくて、なんでもやっていい媒体なんです。それでも「少女漫画」という単語に引っ張られているような閉塞感はやっぱりあって。それを突破するために「部内でいろいろとやってみよう!」という実験的な試みのひとつですね。

「少年・少女漫画」のはもうない!?

吉田:確かに、今は少年・少女漫画のジャンルを超えて、さまざまな漫画が読まれるようになってきましたね。

浅田:一昔前は、男子・女子は「こうあるべき」という社会規範が強かったから、彼ら彼女らの理想の主人公の体現たる少年漫画・少女漫画の分け方もクリアだったと思います。例えば1980年代の男子は、リアルでも暴れん坊が一番良い評価でした。ただ、それは小学生の頃の体が小さくて弱虫な僕の魂には刺さりませんでした。『フォーエバー神児くん』(えだまつかつゆき)や『キャプテン翼』(高橋陽一)のような、倫理的でやさしい男の子が主人公になっている漫画が僕は大好きで、中学生になってから少女漫画も読むようになっていきました。

吉田:少女漫画を読むのは「恥ずかしい」みたいな意識はありませんでしたか?

浅田:恥ずかしかったですよ!けれども、読書好きの中学生のあいだには、「少年漫画じゃないところに手を出しているんだぜ」というイキリ文化があったんですよ(笑)。

佐藤:今は、そういう「少女漫画を読むのはカッコいい」文化が失われていると思います。確かに少年・少女漫画の垣根はなくなってきてますけど、やっぱりまだ手に取りにくいところもあるのかなと。

浅田:僕が少女漫画に触れ始めたのは1985年以降くらいですが、当時の「少女漫画」は文化の最先端で、知的でおしゃれに見えてました。それというのも、現実にあるカッコいいファッションや、外国文化を漫画に落とし込んでいたからだと思うんです。当時は録画機器もあまり家庭には普及してなかった時代で、漫画が新しい世界や価値観を感じるための一番身近なメディアだった。それは僕にとって相当に大きいことだったと思います。

吉田:それからネットメディアが台頭して、色々な情報にアクセスできるようになって、漫画の価値も相対的に下がってしまった側面がありそうですね。

浅田:情報を得るだけだったら、ネットで写真や動画が簡単にかつ大量に手に入ります。だから、そのなかで「あえて漫画で見なければいけないものはなにか?」「あえて漫画で表現することって何だ?」が問題なんだと思うんです。個人的には「現実(リアル)よりも素晴らしい、現実っぽさ(リアリティ)を描くことに向いている」のが漫画の良い所だと思います。じゃあ何を描くべきか。そもそも当時13歳の僕が少女漫画を読んでハマっているわけで、少年・少女漫画を分ける意味はないんじゃないかなとも思います。あくまでも個人の琴線に触れるかどうかが「カッコいい」にとっても重要ではないでしょうか。

第2回はこちら

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