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2019-03-05

アニメへの道はこうなっている!『上野さんは不器用』アニメ化の舞台裏

後輩・田中に恋する科学部部長・上野さんと部員たちの活動を描いた、「ヤングアニマル」で大人気連載中の『上野さんは不器用』。1月からアニメがスタートした同作は、はたしてどのようにアニメ化されることになったのか? 白泉社コンテンツビジネス部の山田茂樹さん、アニメをプロデュースしたアスミック・エースの藤井貴大さん、「ヤングアニマル」担当編集の荻島真之さんに、その舞台裏を聞きました。

(中央)アスミック・エース…藤井 貴大
(右)白泉社 コンテンツビジネス部…山田 茂樹
(左)白泉社 ヤングアニマル編集部…荻島 真之

「これ、アニメになりそうじゃん!」

――『上野さんは不器用(以下、上野さん)』のアニメがスタートしました。そもそも、どのようなきっかけでアニメ化に至ったのでしょう?

藤井:きっかけは、アニメ化するマンガの原作を探していたときに『上野さんは不器用』の1巻の表紙を見たことでした。可愛い女の子の絵と、カラフルな色合いが目に留まったんです。で、原作を読んでみたらとても面白かったので、ぜひアニメ化したいと思って白泉社さんに相談したんです。

山田:アスミック・エースさんとは別の作品で一緒にお仕事をしたこともあり、気軽に声を掛けていただける関係性ができていたんですよね。コンテンツビジネス部では毎年、300人ぐらいの関係者を招いて作品をプレゼンするコンテンツプレゼンの会を開催していて、そこからメディアミックスにつながることも多いんですが、今回は普段のお付き合いの中から企画が立ち上がった形です。

――『上野さん』の連載を立ち上げるときにアニメ化を意識する部分はあったのでしょうか?

荻島:『上野さん』に限らずどの作品でも、頭の片隅にはあります。ただ、表紙はアニメ化を狙ってやったというわけではないんです。色使いをビビットにしたのは、今は新刊が多いので、書店に並べたときに埋もれないようにと思ったから。やっぱり、表紙が黄色だと目立ちますので。デザイナーさんに50パターンぐらいは作ってもらいました。

藤井:1巻の表紙の印象がすごく強かったんですよ。だからアニメ化の際も、ティザービジュアルやキービジュアルでも目を引くように、原作の黄色の表紙をイメージして制作しました。キャラクターの色味もビジュアル用に映えるように本編よりもビビットに作ってもらいました。

――荻島さんはどのタイミングでアニメ化できそうだと思ったんでしょう?

荻島:1巻のパッケージができたときに、「意外といいんじゃね?」と……(笑)。

一同:(笑)。

荻島:「これ、アニメなりそうじゃん!」と自分を信じ込ませていました(笑)。それぐらいポジティブに、やれることはやっていこうと。アニメになった作品を担当している先輩からアニメ関連の会社さんの名刺をもらって、地道にいろいろなところに献本を送らせていただいたりもしましたね。アニメって、それまでやってきたことのひとつの結果だと思うので、tugeneko先生とも「アニメになったらよいですねー」とは話していたんです。

「作家の不安材料を潰していった」

――どのようなプロセスを経てアニメ化のお話は進むのでしょうか?

山田:コンテンツビジネス部では、まず企画をいただいて、編集部に提案します。あとは、企画の精査ですね。編集者は作家さんとの調整がメインだよね?

荻島:そうですね。アニメ化の話が来て、初めにパイロット版をいただいて、作家さんに見ていただくんです。そうした調整が主な役割ですね。でも、パイロット版を作っていただくのはレアケースなんですよね。

藤井:そうなんです。『上野さん』の場合は、キャラクターの可愛さとギャグのテンポ感が大事な作品だと思っていたので、アニメ化にあたっては、可愛いキャラやギャグの演出に定評があるスタジオに制作をお願いしようと考えていました。それで制作を担当したレスプリさんにお願いして、「こういうクオリティーで作っていきます」とお見せするためにパイロット版を作ってもらったんです。

藤井:企画は2017年夏ごろから進めておりましたが、本格的に動き出したのは、2018年の年明けごろです。通常のテレビシリーズだと、まずシナリオを作成して絵コンテ……という流れが多いのですが、『上野さん』の場合は1話完結のギャグ作品で、原作の内容がしっかり描かれていたので、月見里監督とも相談して、シナリオを作らず、原作からコンテに入っていただいたんです。月見里監督や制作のレスプリさんではそのようなやり方が多く、そのほうが原作の良さが伝わるかなと思いました。

山田:まずは担当編集にチェックしてもらったんですが、実際のところ、どうだった?

荻島:ほぼ原作通りで、セリフも含めて忠実に再現していただいていましたね。僕の方では、マンガでは描かれていないけどアニメでは必要な部分や、絵や動きのひとつひとつを先生に確認していただいて、それを制作の方々にお戻しする、という作業を繰り返し行いました。

――ほかに荻島さんがアニメに絡んだ部分は?

荻島:原作のtugeneko先生も初めてのアニメ化だったので、きっと不安を抱えているだろうと思い、できる限り直接お会いして、分からないところがあればすぐに聞いて、そうして不安材料をひとつずつ潰していきました。

――先生からは何かご要望はありましたか?

荻島:やっぱりテンポですね。会話はどこで切るのか。セリフまわしはどうなるのか、言葉のチョイスは……とか。非常に難しい単語が出てくる作品なので、そのあたりを間違えないように細かく見ていました。

山田:彼は担当編集として、毎回、アフレコ現場に立ち会っています。作家との関係性に重きをおく社風なので、白泉社の編集は現場に行く人が多いんですね。逆に、僕は、なるべくクリエイティブには口を出さないようにしています。権利関係の仕事や編集サイドの代弁をするというのが僕等の立ち位置ですので。

藤井:キャストは、メインとなる上野、田中、山下はオーディションで決めました。tugeneko先生にも確認いただいて、みんなで誰がイメージに近いのか決めていったんです。上野さん役は早口のハイテンションの中で、きちんと感情をのせて演じることは非常に難しいのですが、芹澤優さんが一番マッチしていたので、監督や白泉社さんとも相談して決めさせていただきました。本編でも圧倒的に上野さんのセリフ量が多く、非常に重要なキャラだったのですが、芹澤さんに演じてもらってよかったです。

山田:そうそう、そこがこのアニメの肝の1つになると思っていたので、音響監督の方には、「リアルな中学生の会話っぽくなるよう滑舌とかのスキル云々よりもその場の勢いを優先させてください」と、滅多にすることないクリエイティブ面のリクエストを出しちゃったんです。結果、こちらの予想をはるか超えていく振り切り具合で……キャスト陣の頑張りには本当に大感謝です!!(笑)

「モチベーションが上がるならなんでもやる」

――アニメ化を進めるうえで、難しかったことは?

山田:宣伝ですよね……。

藤井:正解がない中で、どう多くのお客さんに作品のことを知ってもらえるか、興味を持ってもらえるかを、日々考えながら……。ひとつのクールに作品数がとても多くなってきている中で、どうやったらほかの作品と差別化できるのか、『上野さんは不器用』という作品らしさを、宣伝やビジュアルを通して伝えられるかを考えていました。

山田:1クールにこれだけの作品があると、事前に目立つことは難しいんですよ、メガヒット作品のアニメ化というわけではないので。けど、いざ注目を浴びたときは慌てないよう、コツコツと仕込みをしていた感じです。

荻島:僕は編集なので、一番苦労しているのはスケジューリング。これは現在進行形です(笑)。先生のモチベーションを保ちつつ、今年の3月までのロードマップを作ったんです。5巻をここで出して、6巻はここで……というふうに。その間に何を仕込めるか、ということを考えていました。

――作家さんのケアが重要なんですね。

荻島:はい。アニメ放送中は連載を休まないようにしないといけないので、今のうちにここで休んでおいてください、と言っていました。せっかくのアニメ化なので、先生にも楽しんでほしいと思ったんです。だから企画の初期の段階からずっと考えて、カレンダーを見ながら調整していきました。

藤井:先生にはアフレコの現場にも来ていただいたんですよね。

荻島:現場で間近で見ていただきました。制作側のみなさんの仕事ぶりを見て、「信頼してお任せできる」と思ったので、僕は作品の中身への質問にだけお答えしていました。あとは作品を世に出すことと、先生に喜んでもらうためにどうするかをずっと考えていましたね。これでもっと原作へのモチベーションが上がり、原作の認知度が上がるなら、なんでもやりたいという気持ちでした。

“エッジの効いた”濃いネタがアニメのフックに

――ところで、tugeneko先生と荻島さんの出会いはどんな形だったんですか?

荻島:他社で掲載されていた作品をみて、お声がけしました。5~6年前ぐらいにメールを送ったんです。地方在住なのでなかなかお会いする機会がなかったんですが、年末に用事で東京に来ると仰っていて、お会いできると思っていたら、僕がピンポイントでインフルエンザになって(笑)。

一同:(笑)

荻島:でもそれで覚えていただいて、じゃあ機会があればと。その後は電話でやり取りしていました。『上野さん』は読み切りからスタートしたんです。当時、他の原稿を2本抱えていらしたので、その合間に描いていただいて、初めに4話載せたあと、充電期間を経て本格連載がスタートしたんです。最初はインパクトを残さないといけないので、原作の1話から4話はいい意味でネタが濃い(笑)。エッジが効いているというか、読者をふるいにかける話が揃っているんです。

山田:それが結果的にアニメにとっては良かったんですよね。

荻島:そうですね。フックになりました。

藤井:僕らも、原作の初めの方のエッジの効いたところをアニメでも生かそうと思いました。どうやって1話でお客さんに印象を残せるかということは、以降の方向性を作るうえで大事なんです。で、1話がいきなりおしっこネタだったので、見た方はみんな、「おしっこ、おしっこ、と(笑)」。

一同:(笑)

藤井:もちろんそれだけではないんですけど、見ていただくきっかけになるうえでは大きかったですね(笑)。

山田:白泉社の作品で、昨年の7月クールに放送した『あそびあそばせ』というアニメがあるんですが、そこでこの手の“エッジの効いたアニメ”が確立できたかな? と手前味噌ながら自賛(笑)しているのですが、そのあと『ゾンビランドサガ』があって、じゃあ、この次に誰がこのイスに座る?となったら『上野さん』が座れた、ということでしょうかね?(笑)

狙い以上の反響が返ってきた

――アニメがスタートしていますが、反響はいかがですか?

藤井:テレビでも配信でも、いろんなところで見ていただいているのかなと思います。アニメを15分尺にしているのは、ユーザーの視聴環境がPCやスマホなどテレビ以外でも見ることが増えていると感じたからです。15分アニメだと実質10分弱なので、通勤・通学中にスマホでとか、配信で見やすいんですよ。原作が1話完結のコミカルなギャグものなので、一番いいのは30分ではなく15分かなと思ったんです。

山田:ギャグものって難しいと言われていますけど、うまくいっていますね。リアルタイム検索でもいい結果が出ていますし、ツイート数も伸びてきていますしね。あと、配信系の状況も良いですし。狙い以上のものも返ってきている、という感じですね。

荻島:原作でも、重版がかかったり、コミックスが動き出していたり、目に見える形で反響はありますね。あと、アニメ化以降、ネットでの感想が増えた実感があります。気づいてくださる方が増えたと思います。

“2期”の可能性も!?

――『上野さん』のこれからの展開を教えてください。

荻島:熱があるうちに、これからいろいろ出していきたいなと思っています。

藤井:まだ放送が始まったばかりなので、きちんと作品をお届けできるように頑張ります。制作現場では今も鋭意アニメを制作しています。そして放送や配信を通して『上野さん』を応援してくださるファンの方がたくさん増えれば、次の展開も考えていきたいなと。

山田:2期とか!?(笑)

藤井:(笑)。放送が始まったばかりの今の段階では明言はできませんが……。たくさんの方に応援していただいて反響があれば、次のステップも考えていきたいですね。まだアニメに出せなかったエピソードやキャラもいるので、そういうのも“次の展開”で出していきたいです。

――では、次にアニメ化したい作品は?

藤井:時代の流れとして、アニメのビジネスモデルが変化してきており、いろいろなジャンルの作品が増えてきていると思います。個人的にはギャグやコミカルな作品が好きなので、気軽に笑って見られる作品を作っていければと考えています。BDやDVDなどのビデオグラムが売れなくなってきていますが、配信でアニメを見る人が増えたり、海外での日本のアニメファンが増えたりといろいろな形でアニメが成立するようになり、いろいろなアニメの可能性が出てきていると思います。ジャンルとしてギャグやコミカルな作品は配信と相性がいいと思うので、笑える作品をアニメ化したいです。

――最後に、マンガラボ!投稿者向けにメッセージをお願いします。

山田:白泉社は、担当編集者が著者との関係をしっかり築いたうえで、まっとうなメディア化をしていると思うんです。読者を裏切らない形のメディア化ができる体制を築こうとしている会社ではないでしょうか。白泉社には、作家性を重視する伝統があるんですよ。

荻島:新人の方にもチャンスは多い会社だと思います。『上野さん』も読み切りからスタートして巻数が浅いところでメディア化につながりましたから。そして、作家さんと真摯に向き合っていいものを作っていこうという気構えを持っています。みんな、マンガが好きで、そういう話しかしていないような編集部。沢山の投稿、お待ちしております。

 

TVアニメ「上野さんは不器用」公式サイト

ヤングアニマル「上野さんは不器用」
■TV
<放送局>

  • TOKYO MX   毎週月曜日25:05~
  • BS11      毎週日曜日24:30~
  • J:COMテレビ   毎週火曜日22:30~

<配信>

  • dアニメストア  毎週日曜日24:30~
  • AbemaTV    毎週日曜日24:30~
  • niconico    (動画)毎週水曜日24:00~(生放送)毎週水曜日24:30~ ほか

【スタッフ】
原作:tugeneko 「上野さんは不器用」(白泉社「ヤングアニマル」連載)
監督・シリーズ構成:月見里智弘/キャラクターデザイン・作画監督:大和田彩乃
美術監督:猿谷勝己/色彩設計:のぼりはるこ/撮影監督:桑 良人・板倉あゆみ
音響監督:阿部信行/音楽:三澤康広/音楽制作:日本コロムビア
制作協力:ギャザリング/アニメーション制作:レスプリ

【キャスト】
上野:芹澤 優/田中:田中あいみ/山下:影山 灯
田中みずな:大森日雅/田中よもぎ:伊藤美来/タモン:井澤詩織
北長:戸松 遥/西原:佐藤利奈/南峰:竹達彩奈/東川:井口裕香
ナレーション:井上和彦

【主題歌】
OP主題歌:「閃きハートビート」伊藤美来
ED主題歌:その1「マイペース・サイエンス」上野(CV:芹澤 優)、田中(CV:田中あいみ)、山下(CV:影山 灯)
その2「ラブミーサイエンス」上野(CV:芹澤 優)

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