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2018-11-07

「“未来形”の編集者が、君を待つ!」白泉社鳥嶋和彦インタビュー

2015年より白泉社の社長を務める、鳥嶋和彦。かつて『Dr.スランプ』『ドラゴンボール』などの大ヒット作を次々に世に送り出した“伝説の編集者”が、白泉社の「いま」と、白泉社で漫画を描くことについて語ります。これから漫画を描こうとするみなさんへの、熱いエールを受け取ってください!

 

全社員と面談して気づいた白泉社の「強み」と「弱点」

――鳥嶋さんが社長に就任してから、丸3年が経ちました。就任した当初「1年目で古い体制を壊して、2年目で種をまき、3年目で芽吹かせる」と話していましたが、どのような3年間だったのでしょうか?

まず正式に着任するまでの2カ月半、やることもなかったから全社員と面談したんだよ。白泉社がどういう会社なのか。そして、何が足りていて、何が足りていないのかを知るために。その結果、スタッフひとりひとりが非常にまじめに仕事をしている一方で、「他の人」をあまり理解していないと感じた。社内はもちろん、外部の協力会社との付き合いも少ない。白泉社は「淡路町」という場所にあるんだけど、「淡路町“内”の所属部署“内”」という、非常にせまい範囲で仕事をしている。だからまず、社内にどれだけの戦力があるのか理解してもらうために、若手の社員を集めて「塾」を開くことにしたんだ。

 

ボヤキから生まれた「即日デビューまんが賞」

「塾」では若手を4人1組のチームに分けて、「私が社長になったら」あるいは「私が編集長になったら」というテーマでディスカッションをした。この塾のポイントは年齢もセクションもバラバラのチームにしたこと。「テーマ」そのものではなくね。「何か新しいことを始めたい」と思ったとき、自分に足りないものを持っている人とチームを組めば、より大きな規模で動かせるようになる。そのために「会社の中の他の人」を知るきっかけにしてもらいたかった。「部署間の横連携」がしやすい環境を整えられればと考えたんだ。それに、編集者は「言葉」で仕事をする仕事でしょ? 漫画家との打ち合わせで一番大事なのは雑談。だからディスカッションは「言葉」を磨く訓練にもなる。

この塾の中で、2017年にスタートした「白泉社即日デビューまんが賞」の原型が生まれてきたんだ。きっかけは、当時のヤングアニマル編集者のボヤき(笑)。「少女誌は投稿がたくさんくるけれど、アニマルは投稿がすごく少ないし、育成のノウハウもない」と。

白泉社の少女漫画誌には、大きな漫画賞も育成も完成されたメソッドもあるのに、横連携する習慣がなかったんだよね。近くに成功事例があるのに、ノウハウを聞きに行かない。「お互いのいいところを盗むなり、聞くなりすればいいじゃん!」という話をしたら、スタッフ同士が自発的に話し合ってあの形(=即日デビューまんが賞)になったんだ。『花とゆめ』『LaLa』『メロディ』『ヤングアニマル』4誌合同で、持ち込み原稿をその日の内に審査してデビュー作を決定する。…僕がやったと思っている人も多いみたいだけど、あれは現場の意見から生まれたものなんだよ。

 

キャラクターを幅広く発信する

――さらに、キャラクタープロデュース室という新部署ができました。ここから業界では初となる、ひとつの会社の漫画雑誌がすべて協力している「マンガPark」というアプリも誕生しています。

最初の面談で、現キャラクタープロデュース室長を務めている社員のことを「非常に面白い」と感じてね。すれっからしで、僕に対しても一切媚びないの(笑)。だからまず彼とお茶しながら「若いスタッフが漫画や漫画家を素材にして、何か新しいことができないか?」と話し合った。雑誌が厳しくなっていく中で、キャラクターをどう効果的に発信するか? 出版社はどこもそうだけど、徳川の「鎖国」状態に近いんだよね。同じ社内でも、雑誌ごとに閉じている。そこで、長崎を作り黒船を迎えよう、それをきっかけに「鎖国制度」そのものを壊して中から変えていこう、と思ったわけ。

最初に、現場で元気のある編集者2名を配置して、室長と3人で、各編集部の編集長と議論してもらって、やりたいことを形にしてくれといったら、「マンガPark」ができたんだ。僕は「こういうことをして」を現場に指示はしていません。「場」を作れば、スタッフ自身がやりたいことを最適な形で見つけることはわかってたんで。僕には経験則はあるけど、感性が無い。感性は今、現場にいる人たちの方がはるかに優れているんです。

 

「足し算」から「掛け算」ができる会社になった

――ほかにも鳥嶋さんのアイデアから生まれた企画はあるのでしょうか。

企画なんて、思いつきでいいんだよ。「メディアプレゼン会」も今年で3回目になるけど、最初はコンテンツビジネス室っていう、知的財産を扱うチームの部長に「ゴルフコンペやれば?」って言ったのがきっかけかな。白泉社は強いコンテンツを持っているけど、業界の人とのつながりが弱い。だったら業界の人を呼べばいい。バブル期じゃなくて、今やるからこそ、目立つぞって(笑)。でも彼は、ゴルフやらないんだよね。だからゴルフ以外でどうにかしようと一生懸命考えたんだと思うけど「コンテンツ業界の人を招待して、スタッフがプレゼンをする会をしたい」と申し出があったんだ。

「メディアプレゼン会」は定期刊行雑誌の編集長が横並びで自分たちの推しコンテンツのプレゼンをするイベントなんだけれども、実は年々、会への参加者が増えているんだ。最初は確かに僕の知人に声を掛けたけど(笑)、2年目以降は「1回目が面白かった」と思う人しか来ないはず。だけど、増え続けているのは、それだけ白泉社に魅力的なコンテンツがあるってことだね。

それと、人前にさらされると、どの程度自分にプレゼン能力があるか、自分たちのコンテンツを知っているか、自覚できるようになるでしょ? 編集部が、作家が生み出したコンテンツをより多面的に見られるようになる。

さらに他業種の人からの客観的な意見を聞くと、より広い視野でコンテンツを捉えられるようになるよね。作家と打合せをしている最中にも、興味を持ってくれそうな人の顔を具体的に思い浮かべられるようになるし、「どう売るか?」というプランニングも立てやすくなる。これまで白泉社は「足し算」でしかモノを考えられなかったけれど、今は多くの味方を得て、「掛け算」ができるようになったと言えるかな。

 

白泉社は「I will」で“未来形”だ

――白泉社で漫画を作る、持ち込みする「良さ」とはなんでしょうか?

今の白泉社は「I must(やらなければならない)」 ではなく「I will、We will(これをしたい、あれをしたい)」。という“未来形”で動いているから、うちで仕事をすると、可能性が広がると思う。なぜなら、現場が自由に動いているから。現場の編集者が、漫画家や作品を見ながら、常に動いて、考えている。現場がどう動くかを自分たちで決められるということは、実はとても重要なこと。白泉社は何より現場に決裁権があるし、現場がやりたがっていることをマネジメントする素地がしっかりできあがっている。

一例を挙げると、編集部門では、先輩編集者やヒット作を出した編集者が若手に講義をするようになったんだ。編集者としてのノウハウを、囲い込むのではなくオープンにしたってこと。ヒットを出した編集者は、説明することで自分の経験則を体系化できるし、若手は講義を聞くことでヒントを得ることができる。これはGoogleでも実行していることなんだよね。成功体験を共有することで、その社員も、周りも育つ。

従来、この業界はノウハウを隠したがってきたけど、実は隠すほど「大したこと」なんてないのよ。僕が『ドラゴンボール』や『Dr.スランプ』を担当していた時の話をしたって、ノウハウ自体はたいしたことない(笑)。ヒット作は、半分は偶然で、半分は漫画家と編集サイドの成果だけど、その半分のうちの8割は漫画家の手柄だから。編集は2割ぐらいだよ。

作家にとっても編集者にとっても大事なのは、過去の成功体験や事例にとらわれず「常に考え続けること」。そのためにも、考える機会と場を作ることが大事だよね。打ち合わせでお互いに刺激を感じられれば、あとは自動的に1人で考えられるようになる。自分の考え方そのものを押し付けると、相手は考えることをやめてしまう。それじゃ面白いものはできないのは当然だよね。

 

伸び盛りの編集者と“新しい挑戦”を!

――社長になって丸3年。当初描いていた目標、ビジョンに近づいているという手応えは感じていますか?

白泉社の編集者の質はこの3年で確実に上がった。だから今、白泉社と仕事をするとお得だと思うよ。伸びざかりの編集者と、新しいことに挑戦できるから。この業界の状況が厳しいことには変わりないけど、何かをやれる可能性が高くて自由度の高い会社と組めば、その怖さは半分になる。怖さを吹き飛ばせるくらいの暴れられる「余地」があるからね。

あと、編集者と仕事をする利点は、自分が描いている作品を客観視できること。読者の反応は単に「面白いか、面白くないか」だけど、編集者がいれば、なぜ面白くないか、どうすれば面白くなるかを知ることができる。さらに、どうすれば長期的なスパンで成長できるのか、プロデュースしてもらえることも大きいだろうね。実力や環境を見極め、どのタイミングで何を吸収させるか、どんな課題を与えて乗り越えてもらうか。クリエイターである漫画家自身が自分をプロデュースする視点を持つことは、実はとても難しい。

人気が上がって、いわゆるスピードが上がれば上がるほど、車の運転と一緒で遠くを見なきゃいけなくなるし、その勢いを殺さないためには編集者というスピードメーターが必要になる。小さな仕事ならひとりでもできるけど、大きな仕事をしようと思うなら、やっぱり編集という伴走者を選んだ方がいいね。ひとりでは乗り越えられないことも、伴走者がいると越えられるから。

 

「才能を発見して育成する」システムは漫画だけ

――漫画業界の今後の展望を、鳥嶋さんはどのように見ていますか?

出版社はもう終わりだね(笑)。今ある出版社の形は、もう難しいだろうと思う。ただ、ストロングポイントを磨いていけば、生き残るどころかトップに行ける。エンターテイメント業界におけるさまざまな分野の中で、才能を発見し、育成することを『システム化』できているのは、漫画しかないでしょ? 何もないところから、キャラクターや世界観を作る。その才能を発見、育成できるのは、漫画しか今のところないんだよ。

だけどそれを、紙の雑誌に載せて「出版」の形でやることには、もう従来の半分の意味もないと思う。どう他のメディアと絡ませて才能を最大化していくか、日本からどう世界に発信していくかをこれからは考えていかないとだめ。大切なのは、新しい才能を発見・育成して、世界にどうやって売り出すか、ということ。才能を見極め、最大化できる編集と組んで、漫画家自身にも枠を壊していって欲しいね。

 

新しい才能を発掘する「マンガラボ!」

――新しい才能を発掘する場として、漫画家と編集者をマッチングする「マンガラボ!」もスタートしますね。

まだどうなるかわからないけど(笑)、まずはやってみることが大事だね。やっぱりこういうものって、試行錯誤してみないとね。失敗したら直せばいい。そこがはっきりしないと、次のフェーズに行けないから。

新人の方には、自分がどうなりたいのか、自分自身の目標設定を明確にしておいてほしいね。漫画で単に飯を食っていきたいのか、世界的ヒットを飛ばしたいのか。白泉社で仕事をすることについて真剣に考えて、門を叩いてほしい。そうすれば必ず、伸びざかりの編集者が、“未来形”でお相手します。『白泉社の編集者は「Will」で、“未来形”で仕事をします』ということ。

目標設定ができている方は、ぜひいらしてください。

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